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転載記事

著作権の保護期間延長に関する意見書

作成日時:2006年12月22日
著者:日本弁護士連合会
参考記事:日弁連、著作権保護期間の延長に反対する意見書を提出(INTERNET Watch)

 

 著作権の保護期間延長について日本弁護士連合会は以下のとおり意見を述べる。

第1.日本弁護士連合会の著作権保護期間延長に対する意見と提言

 著作権の保護期間(著作者の死後50年)を20年延長して、死後70年を原則とすることについては反対する。

 保護期間延長を検討する場合、充分な討議、実証的データの収集、影響が予想される関係者からの意見聴取のプロセスを踏んで、慎重に検討されるべきである。

 上記の手続きを踏まえたうえで、なお保護期間の延長が選択された場合は、期間延長に伴うデメリット、不都合を洗い出し、これを可及的に回避すべく実効性ある措置、制度を遅くとも保護期間の延長と同時に整備するべきであることを提言する。

第2.日本弁護士連合会の意見と提言の理由

1.問題の所在

 社団法人日本文藝家協会等の権利者団体は、去る9月22日、著作権の保護期間延長を求める要望書を文化庁著作権課に提出した。内容は、現在「著作者の生前及び死後50年間」である著作権の保護期間を、更に20年間延長し「死後70年間」とすること等を求めるものである。

 なお、保護期間延長による不都合への対処として、死後の許諾のとりにくさに対処するためデータベース整備等に取り組むとされている。

 ベルヌ条約が加盟国に要求する著作権の保護期間は死後50年間であるが、多くの欧米諸国は、1990年代に保護期間を一律20年間延長している。

 米国は、わが国に対し「規制改革及び競争政策イニシアティブ」において、わが国の著作権の保護期間の延長を再三要求している。米国では過去においても、古い作品の著作権が切れそうになると、延長が繰り返されており、1998年の保護期間延長(いわゆる「ミッキーマウス保護法」)については社会的論争を生み、大規模な違憲訴訟の対象にまでなった(訴訟結果は、連邦最高裁において合憲確認、ただし全員一致ではない。)。

 日本文藝家協会等の前述の「要望書」はかかる状況の下でなされたものであり、著作権の保護期間延長は現実的立法問題となっている。

2.保護期間延長論の根拠とするもの

 保護期間の延長が必要な理由として挙げられるのは概略、次のようなものである。

(1)保護延長は創作者にとって新たな創作の意欲を高める。

(2)国際的調和をはかることが文化交流の観点から望ましい。またわが国の著作物の真の国際競争力につながる。

(3)欧米諸国なみに延長することで真の「知財立国」を実現できる。

(4)延長とあわせて(わが国だけが一方的に課されている)「戦時加算」を解消できる。

(5)保護期間の延長により、著作物の資産価値が高まり、これを利用してファイナンスすれば、再生産のための資金調達が容易になる。 

3.保護期間延長論への危惧ないし疑問

(1)創作者の利益になるのか

 保護期間を著作者の死後50年からさらに延ばしても著作者の創作活動を支えることにはならない。

(2)利用許諾権者の拡散

 死後長期化するほど相続等の権利承継が多くなり、権利が分散化し利用許諾を得るのが一層困難となる。

 それによって各種文化活動やアーカイブ活動などの創作、実演、研究、保存等の活動を萎縮させることになる。

 また権利処理の煩雑さから、むしろ死蔵され日の目を見ない古いコンテンツが増える蓋然性が高い。

(3)創造性のサイクルを害する

 古い作品に基づいて新しい作品が創られるという、著作物の「創造のサイクル」が害されるという危惧が否定できない。

(4)わが国の知財戦略として適切な選択ではない

 国際協調という大義はあるものの、保護期間を延長しても欧米の一部権利者の利益に資するのみなのが実際で、わが国の権利者にとっての現実的利益はない。むしろわが国の創作者の創作活動の自由領域を狭めるという意味では結果的に「知財立国」に逆行する可能性がある。

(5)「戦時加算」の解消とは無関係

 「戦時加算」はサンフランシスコ講和条約上の義務であり、著作物の保護期間の延長がその解消に資するというのは極度に現実性の低い一方的な希望にすぎない。

(6)著作権の保護期間が延長されたとしても、評価の定まらない著作物について70年以上先まで見通してファイナンスがされるというのは非現実的である。

4.意見の理由

(1)著作権制度のあり方は、わが国の今後の文化活動や創造活動のあり方に大きな影響を与えるものである。特に保護期間は、一度延長されると既得権の関係で短縮はきわめて難しい。

 上述の観点から、保護期間の延長については、次のような点につき十分に配慮し、慎重に議論し、検討し尽くすことが必要・不可欠である。

ア.直接の当事者と言うべき権利者団体はもちろんのこと、延長によって直接的な影響を受ける、オーケストラや合唱団等の実演家団体、芸術団体、図書館や電子アーカイブ等の保存・公開活動の主体、視聴覚障害者等の福祉関連利用者、教育機関及び研究機関、各種分野における現場の著作者を含む各種のクリエーター、放送局・出版社等の事業者、その他関係者の意見を広く十分に聞くべきである。

イ.延長が具体的にどれだけ著作者の意欲を高めるのか実証的なデータや経験に基づく検討が必要と思料する。

ウ.保護期間の延長以外のより社会的影響の少ない実効的な創造振興策の調査検討をする。

エ.延長によってわが国の知的財産権収支はどのような影響を受けるのか、直ちに延長を図らない場合、わが国の著作物の国際的流通に具体的にどのような影響が出るのか、等の諸点について文化政策論・経済学・国際ビジネス論等の視点から、実証的なデータや実体験に基づいた検討を尽くす。

(2)仮に保護期間を延長するとした場合の前提措置の提案の理由

 以上の議論と検討を尽くした上で、仮に結果として保護期間の延長を決定する場合、前提条件として、既に提案されているデータベースの整備(どこまでデータを過去に溯及できるかという問題は置いておく。)が実効性のあるものが創られることは勿論のこととして、これに加えて、保護の期間延長により確実に生じるであろう、または深刻化するであろう不都合を可及的に小さなものとするために、以下のような措置が事前に講じられることを提案する。

ア.著作者死亡後の作品について、網羅性・実効性の高い利用許諾の制度の創設、整備と継続的維持のための予算制度。

イ.相続人が多数となった、あるいは相続人の一部または全部が不明または所在不明となった、という、発生が稀有でない事例に備えて、簡易で実効性が高い利用裁定制度の整備と予算措置。

ウ.著作者死後の作品について保存・普及・研究・教育・福祉等を目的とする小規模利用や、非営利利用を困難にしないための更なる措置。

 

以上。

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